小 熊 座 句集 『鳥食』抄 佐藤 鬼房
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    絵はがき 山田美穂さん提供          鬼房愛用の硯、筆
     (鳥食の句集の句)



      句集   『鳥食』抄 佐藤鬼房(自選)   昭和48年〜51年


      凍山河日暮かならず熱出して

      耳傷に山の陽山の深みどり

      鳥食
(とりばみ)のわが呼吸音油照り

      日の出の苦蓬わが旅なかば

      霧ごめの雑木の骨を持ち帰る

      渚ゆく後頭われかひとか雪

      冬蜘蛛に息絶えし笛与ふべし

      跳ぶ幼女水かげろふの向岸

      解体の機器にもの言ふ三鬼の日

      頬杖を解く冬至粥食はんため

      水無月のたとへば北に病める葦

      吐瀉のたび身内をミカドアゲハ過ぐ

      葡萄樹下奔馬のごとき洩れ陽あり

      八月の雨の肋を探りゐる

      野葡萄に声あり暗きより帰る

      時雨ふる磐城ぞ琵琶の弾きがたり

      空と山陸みて狐火がともる

      大雪の朝を出でゆく魚の骨





     
あとがき     佐藤 鬼房


   『鳥食』は近く増補再刊予定の初期句集『名もなき日夜』から数えて第五句集に
 当たり、『地楡』以降の近作五百句を収録。これでほぼ洗いざらい三十五年の足跡
 が白日にさらされることになる。

 齢五十の半ばを越え、所詮とりばみの愚痴に等しかった来し方を愧じるばか。だが、
 訴え叫ぶことから、言葉を絶って地に沈む静謐の霊歌をねがういま、私にとってこの
 句集は何らかの区切りになるのかも知れぬ。収斂の時期、身軽にやさしくなりたい。

 しかしながら私の中の血を見つめずには何事も詠み得なかったように、おそらくこれ
 からも鳥食の賤しい流民の思いは消えず、迷い多き詠い手として試行錯誤を繰返し
 てゆくばかりなのだろう。
  終りに、ぬ書房の穂積隆文氏、坪内稔典氏の篤い懲慂に感謝申しあげる。






  
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